2011-01-01から1年間の記事一覧

麋角解

「角」(89D2)のGB字形は中央の縦画が突き抜ける形。AdobeJapan1のCID=13682である。岩田母型製造所に残された弘道軒清朝四号の活字は「抜けない」形になっているが、坪内逍遥『小説神髄』を見ると、元々の清朝では「抜ける」形になっていたことがわかる。U…

乃東生

ひらがなの「の」の字母「乃」、ごく単純な字の筈だが、結構厄介だ。字源としては弓の弦が伸びて緩んだ象形だという。 説文解字の「乃」は一画で、「𠄎」(U+2010E)のような形、あるいは「弓」に近い形の「𢎗」(U+22397)、または「𢎧」(U+223A7)となる…

鱖魚群

このところ、互換漢字増補や統合漢字拡張Bなど、面倒な異体字ばかり挙げてきたが、今回は「羣」。JIS第2水準だから化ける心配はない。 康熙字典では「羣」が正字、「群」は俗字とはっきりしているのだが、常用漢字表の括弧内の漢字(いわゆる康熙字典体)に…

熊蟄穴

康熙字典では「火部」にあり、「熊」の古文として「𪏛」(U+2A3DB)を掲げ、次項に「熋」(U+718B)を俗字として載せている。 Unicode Ext.Aには、「熊」の書写体を俗字として扱う「㷱」(U+3DF1)が収録されている(「去」にするのは大いに問題があるが)。…

閉塞成冬

「成」の康熙字典体は「成」(U+2F8B2)、微妙な違いだが、一画多い。「丁」が二画に数えられるからだが、楷書でも普通は鉤の手に折れて一画で書く。 開成石経では分けて書いているようだが、そんな面倒なことは普通しない。 異体字としては「丁」の代わりに…

橘始黄

十数年前、ある団体の名簿を作っていて、橘の旁「矞」(U+77DE)で「いち」と読む名前があった。第4水準の漢字で、当時は作字するしかなく面倒だった。

朔風拂葉

「拂」は当用漢字表ではこの形だが、当用漢字字体表で「払」の形となった。 すでに大正8年の漢字整理案でも「許容体案」に出てきてはいる「払」だが、一般に用いられた様子は見えない。もっとも手書きでは使われたかもしれない。弘道軒清朝四号に「払」があ…

虹藏不見

弘道軒清朝四号の中に、「藏」と「蔵」の両方があるのが解せない。「藏」も決して康熙字典体ではない。見比べればこの二つの字体を同じ人間が書き分けたのではないことは瞭然だろう。「蔵」は明らかに昭和二十年代以降に書かれたものである。

金盞香

「香」という字を漢和辞典で見つけようとすると、かなり大変な思いをする。部首は禾でも日でも曰でもない。驚いたことに「香」という部首がある。部首字なら象形なのかというと、そういうわけでもない。小篆は右のようになっていて、「黍+甘」なのだという。…

地始凍

「凍」の異体字といっても簡体字の「冻」くらいしかないかなと思ったら、大熊さんが面白いことを書いていた。 http://tonan.seesaa.net/article/232965513.html「涷」(U+6DB7)は川の名前、また俄雨、豪雨の意味で、「こおる」とは関係ないが、古来混同され…

山茶始開

「茶」の字は説文になく、字源はよくわからない。 字書では「荼」から分かれたものだという。また「𣗪」(U+235EA)とか「𣘻」(U+2363B)という異体字もある。ふと、思い出したのが大熊さんのブログ。「保」は「ホ」でないといけない、康熙字典以来間違って…

霎時施

「時」の異体字でUnicodeにあるのは、まず簡体字の「时」(U+65F6)、古文の「旹」(U+65F9)。ほかに「㫑」(U+3AD1)、「𣅱」(U+23171)がある。台湾のサイトでは、下のように様々な異体字を掲げている。簡体字の「时」も古くから書かれ、亡父も日記では…

霜始降

近頃の中台漢字サイトの充実ぶりは凄まじい。 http://www.zdic.net/ とか http://chardb.iis.sinica.edu.tw/ などを参看すれば、大抵の字書より多くの情報が得られるくらいである。 後者からリンクして、 http://dict.variants.moe.edu.tw/ を見ると、「霜」…

蟋蟀在戸

「戶」「户」「戸」と3つもUnicodeにあるのは、台湾のTCA-CNS 11643-1992が元々持っていた繁体字の「戶」のほかに、簡体字の「户」と楷書体の「戸」を符号化していたためで、日本のJIS X 0213はこの3つの字体を包摂しているが、IVSを振ることはできず、JIS…

IVS飲み

いつものテーマから外れるが、昨夜の写真(ピンぼけ、手ぶれご容赦ください)を。 @akatsuki_pocketさんと@ragged_rightさん @akane_nekoさんと@KAN0Uさん @ragged_rightさん、@bunzo78さん、@moji_memoさん、@ogwataさん、@kawabataさん、@monokanoさん @og…

菊花開

「菊」には訓読みがない。強いて言えば、「よもぎ」とか「さきな」なのだろうが、万葉集に菊を詠んだ歌がないというから、日本になかった花なので言葉もないわけだ。 それが国家を代表するような花として、現在はある。艸冠を無理に四画にした明朝体は美しく…

追記

梯子高(郄)が化けてしまった。

鴻雁來

「来」の旧字は「來」で、活字が「来」になったのは『当用漢字字体表』以後。100字の略字を当用漢字表に先駆けて用いた朝日新聞でも「来」は使っていない。と云うのは明朝体の話で、手書き文字の場合、隷書以降は基本的に「来」を書いてきた。 http://www.jo…

水始涸

さすがに「水」などという基本の基本のような字には異体も何もないというところだが、草書の中には結構難しいのもある。 それ以上の謎は漢代にあって、どのようにして「サンズイ」が生まれたかというのが最大の謎だ。 子供の頃、野末陳平の『姓名判断』とい…

本能寺ほんのうじ

昨夜twitterに書いたことだが、「能」の書写体を無理に明朝体に作って符号化するなど無用だと言った時(www.itscj.ipsj.or.jp/domestic/mojicode/houkoku922.pdf)、すでにExt. Aにそれが入っていた。 「䏻」(U+43FB)は、康熙字典にも諸橋大漢和辞典にもな…

蟄蟲坏戸

「蟄」は蟲(必ずしも昆虫ではない)が土中に冬ごもりすること、転じて人が家にこもること。「蟄居(ちっきょ)」は「蟄居閉門」、罰としての「押し込め」という意味合いがある。自ら閉じこもる場合は「ひっきょ」と読む(嘘)。「蟄(zhé)」の聲符は「執(…

雷乃收聲

岩田母型製造所の弘道軒清朝四号には、「聲」も「声」もある。「声」は当用漢字表にも略字で載っているから、戦前からあったには違いない。 それにしても「聲」の字がどうも弘道軒らしくないように感じる。手持ちの『東京日日新聞』のコピーから「聲」を探し…

所かわれば

子供の頃、父親の書く「所」という字が不思議だった。あとで思い返せば行書で書いていたにすぎないのだが、この形がずっと頭に残っていた。 ←干禄字書でいえば「俗」とされる形だ。 ところが、康熙字典の御製序で、この形が現れる。御製序では「所」という字…

玄鳥去

「去」の本字は「厺」(U+53BA)。説文には「人相違也。从大𠙴聲。凡去之屬皆从去。丘據切」とあって、下は「厶」ではなく「𠙴」(U+20674)であるらしい。さらに「𠙴」は「𥬔」(U+25B14)と同じであるらしい。すなわち竹製の飯器。 漢和辞典で「去」を「器…

鶺鴒鳴

「鳴」もなかなか難しい漢字である。鳥部にあるが、「口」が聲符でないことは自明なので会意字。説文には「鳥聲也。从鳥从口。武兵切」とあって鳥と口で鳥の声を表す。漢和辞典も概ねこのまま、あるいは鶏の声とする。ところが、『字通』では、これも「クチ…

草露白

「草」という字は不思議な字だ。もともと「艸」でよかったものを、態々同音の音符「早」を加えた俗字ができ、それが通用したわけだ。「艸」は「艸冠」のための意符と化し、「くさ」の意味としては「本字」となった。 「早」についても諸説ある。櫟の実(団栗…

禾乃登

学生の頃までずっと、「のぎへん」は「ノ木偏」だと思っていた。 大辞林にいうように、 【芒】のぎ ①稲・麦などイネ科植物の実の外殻にある針のような毛。のげ。 ②(「禾」と書く)金箔きんぱく・銀箔ぎんぱくの細長く切ったもの。料紙や絵画などの飾りに用…

天地始肅

常用漢字は「粛」。中国簡体字は「肃」。康熙字典は古文として「𦘡䏋𢙻」※を載せる。米に略すのは「淵」の俗字「渊」と同じだが、こちらの俗字は実際には「渕」が多い。 弘道軒清朝の「肅」もちょっと面白い形になっている。※ 【追記】康熙字典では「粛」を…

ツジさんの話

校正者の先輩にツジさんという人がいた。彼は雑誌や書籍より新聞社の仕事が好きだと漏らすことがあったが、その理由を酒の席で聞いたことがある。新聞の仕事はその日1日で終わる。出来上がったものも1日で古新聞になる。そのスピード感がいいと別の先輩が…