草露白


「草」という字は不思議な字だ。もともと「艸」でよかったものを、態々同音の音符「早」を加えた俗字ができ、それが通用したわけだ。「艸」は「艸冠」のための意符と化し、「くさ」の意味としては「本字」となった。
「早」についても諸説ある。櫟の実(団栗)の象形「皁」()とも、「さじ」の象形からの仮借とも、「日+屮」の会意ともいわれる。「はやい」という意味がどこから発生するのかもよくわからない。小学校で習うような簡単な字が、実は結構難しい。
もう一つ鬱陶しいのが艸冠の形状で、Unicodeでも「艹」「艹」「艹」「䒑」が存在する。篆書の艸冠が楷書になり、さらに康熙字典で直線化したときに、「艸」が「艹」(++)となったわけだが、筆画に忠実にするならむしろ「×+」くらいにしておけばよかった。美華書館以来、明朝体では「艹」としてきたし、それで何の問題もない。人名で変に拘って艸冠を4画にしたいと真ん中を削ってウロコなしの十ウロコありの十の気持ちの悪い艸冠を印刷させているのを見ると哀しいやら阿呆らしいやら。さらには「艹」とも書かれ、これでは「夢」の上部であって艸冠ではなかろうと思うが、弘道軒はこう書いている。「䒑」は草書でよく書かれる形だが、「前」は艸冠ではない。


追記:上記〈櫟の実(団栗)の象形「皁」()〉で、私用文字に化けてしまったのは、U+7682。JIS X 0208, 0213ではこの字は「皀(U+7680)」に包摂されている。