所かわれば

子供の頃、父親の書く「所」という字が不思議だった。あとで思い返せば行書で書いていたにすぎないのだが、この形がずっと頭に残っていた。
干禄字書でいえば「俗」とされる形だ。


ところが、康熙字典の御製序で、この形が現れる。御製序では「所」という字を七回使っている。


7分の3が「俗字」ということになる?
御製序は、皇帝による文章を清書したものとされる。そんなところに「俗字」を書いたら首が飛ぶのではないだろうか?

駆け出しの校正者時代、諸橋『大漢和辞典』を調べ放題という贅沢な環境があり、暇があるとめくっていたのだが、この「俗字」を探してみたことがある。


52と13549が見つかった。
52は「所の俗字」とあるが、13549は「音ショ、義未詳」となっている。「音義未詳」でなくてまだよかったが、ずいぶん冷たい扱いだ。まあ、康熙字典を引いただけ、ということなのだろう。

さて、Unicodeも拡張Dまで進んで、ここに日本から、諸橋52によく似た字が入った。

「𫝂」(U+2B742) http://glyphwiki.org/wiki/u2b742

グリフwikiを覗いてみると、住基文字から入ったらしいが、諸橋52とはわずかに違う。さらに戸籍統一文字には別の字形も収録されているらしく、
http://glyphwiki.org/wiki/dkw-00052
http://glyphwiki.org/wiki/koseki-000770
とそれぞれグリフが作られている。

諸橋13549は拡張Aにあり、
「㪽」(U+3ABD) http://glyphwiki.org/wiki/u3abd

さらには、また別に
「𠩄」(U+20A44)http://glyphwiki.org/wiki/u20a44
と、なんと「雁垂」の部に入れられているものまである。

やれやれ。御製序の電子翻刻には「所」一つだけで済ましてほしいものだが。