蟄蟲坏戸

「蟄」は蟲(必ずしも昆虫ではない)が土中に冬ごもりすること、転じて人が家にこもること。「蟄居(ちっきょ)」は「蟄居閉門」、罰としての「押し込め」という意味合いがある。自ら閉じこもる場合は「ひっきょ」と読む(嘘)。「蟄(zhé)」の聲符は「執(…

雷乃收聲

岩田母型製造所の弘道軒清朝四号には、「聲」も「声」もある。「声」は当用漢字表にも略字で載っているから、戦前からあったには違いない。 それにしても「聲」の字がどうも弘道軒らしくないように感じる。手持ちの『東京日日新聞』のコピーから「聲」を探し…

所かわれば

子供の頃、父親の書く「所」という字が不思議だった。あとで思い返せば行書で書いていたにすぎないのだが、この形がずっと頭に残っていた。 ←干禄字書でいえば「俗」とされる形だ。 ところが、康熙字典の御製序で、この形が現れる。御製序では「所」という字…

玄鳥去

「去」の本字は「厺」(U+53BA)。説文には「人相違也。从大𠙴聲。凡去之屬皆从去。丘據切」とあって、下は「厶」ではなく「𠙴」(U+20674)であるらしい。さらに「𠙴」は「𥬔」(U+25B14)と同じであるらしい。すなわち竹製の飯器。 漢和辞典で「去」を「器…

鶺鴒鳴

「鳴」もなかなか難しい漢字である。鳥部にあるが、「口」が聲符でないことは自明なので会意字。説文には「鳥聲也。从鳥从口。武兵切」とあって鳥と口で鳥の声を表す。漢和辞典も概ねこのまま、あるいは鶏の声とする。ところが、『字通』では、これも「クチ…

草露白

「草」という字は不思議な字だ。もともと「艸」でよかったものを、態々同音の音符「早」を加えた俗字ができ、それが通用したわけだ。「艸」は「艸冠」のための意符と化し、「くさ」の意味としては「本字」となった。 「早」についても諸説ある。櫟の実(団栗…

禾乃登

学生の頃までずっと、「のぎへん」は「ノ木偏」だと思っていた。 大辞林にいうように、 【芒】のぎ ①稲・麦などイネ科植物の実の外殻にある針のような毛。のげ。 ②(「禾」と書く)金箔きんぱく・銀箔ぎんぱくの細長く切ったもの。料紙や絵画などの飾りに用…

天地始肅

常用漢字は「粛」。中国簡体字は「肃」。康熙字典は古文として「𦘡䏋𢙻」※を載せる。米に略すのは「淵」の俗字「渊」と同じだが、こちらの俗字は実際には「渕」が多い。 弘道軒清朝の「肅」もちょっと面白い形になっている。※ 【追記】康熙字典では「粛」を…

ツジさんの話

校正者の先輩にツジさんという人がいた。彼は雑誌や書籍より新聞社の仕事が好きだと漏らすことがあったが、その理由を酒の席で聞いたことがある。新聞の仕事はその日1日で終わる。出来上がったものも1日で古新聞になる。そのスピード感がいいと別の先輩が…

綿柎開

「綿」は「棉」。「きわた」。「まわた」は絹綿。 糸偏の下部を「小(しかも下をはねない)」で教わってしまったおかげで、本来の楷書の糸偏を異体字に感じてしまうというのは困った傾向だ。 iPhone、iPadの「くらしのこよみ」が「綿柎開」を「綿析開」に誤…

「之」の弘道軒清朝

昨夜Twitterで〈江守賢治先生に会った時、「之」は4画って聞いた。今時の標準は3画なんだが、篆書を明朝体化した「㞢」は4画。〉と書いた。一応、弘道軒も出しておく。

蒙霧升降

「のぼりおり」する「ショウコウ」は、いまは「昇降」と書かれるが、この「蒙霧升降」のように「升降」も使われ、また場合により「陞降」とも書かれた。阜偏で揃っているのが気持ちよい。 中国簡体字では「昇」「陞」に代えて「升」を用いる。日本では「升」…

寒蟬鳴

寒蟬は蜩(ひぐらし)。かなかなかなと鳴く。 セミは仮名漢字変換では「蝉」しか出なかったりする。JIS X 0208の「互換規準29字」のひとつで、第1-第2水準の文字セットに準拠するフォントでは、字形は蝉でも蟬でもよいことになっている(JIS X 0213では、「…

涼風至

今日は立秋。つまり、これから先の暑さは残暑ということになるが、今日の残暑の厳しさといったら……。 涼風といえば、昨夜東京に戻ったら、雷雨のあとで結構涼しかった。 さて、弘道軒の「涼」。勢いあまって鍋蓋の点が突き出している。 冫の凉は俗字だが、現…

大雨時行

大雨が降るといっても、ゲリラ豪雨は勘弁してほしいものだ。 いろんなフォントで「雨」。楷書系だと中に「水」を書いているように見える。 他は点四つ。稀に横線のものも。これが雨冠だと、横線ばかりになる。 明朝体だと、この四本の横線にウロコをつけるか…

土潤溽暑

弘道軒の字形には書風のばらつきがあるが、「溽」は出来のいい方に思う。「者」の康熙字典体のように点の付加された字体は楷書には一般的ではない。

桐始結花

昔通ったゴールデン街の店のトイレから、裏の空き地が見えて、そこにある時一本の木が生えているのに気づいた。木はどんどん伸びて二階に届くまでに育った。あれは桐だったような。

鷹乃学習

爪を隠したり学習したり、鳶から生まれたり、鷹は偉い! は、ともかく「習」の字形。弘道軒は康熙字典体と同じ形。正楷書や文部省活字は羽の左右が異なるパターン。

蓮始開

七十二候、今日から「蓮始開」(「蓮始華」とも)。 弘道軒の蓮は二点しんにょうに作っている。 楷書などでは艸冠が小さめに書かれるのが一般的で、康熙字典体のような形には書かない。 康熙字典で蓮の古文に「苓」を掲げているが、音も違い今は別字。上野の…

七十二候の「温風至」の「温」の字。字書では「溫」を旧字とする。 が、通用字はずっと「温」なので、「溫」の使いどころはない。 康熙字典では、「本字」としている。小篆の字形を指す。追記:昭和十年の広辞林で、「溫」が使われている。この辺がややこし…

片塩氏の「論文」は「幻想小説」だった!

『タイポグラフィ学会誌04』所収 片塩二朗「弘道軒清朝活字の製造法とその盛衰」の冒頭に、若き日の片塩氏が猪塚良太郎氏の仕事場を訪ね、清朝活字について教えられるという挿話がある。「25年前に廃業」とあるし、素直に読めば、1970年頃の思い出話と読める…

T楷書

まだやってたのね、GT書体。知らぬ間に三書体とは。 楷書があると聞いては無視できないのでダウンロードしてみた。なんか教科書体っぽいかな。どこで使うのかいな。

神崎正誼の崎の字

片塩論文72ページで、〈「神崎正誼の死亡公告」〉というところと、74ページの〈「神崎」は「神崎」と〉(二カ所)というところだけ、「粼」U+FA11をわざわざ使っている。 弘道軒清朝で印刷された「崎」を明朝体で再現しているのだが、こんなことが必要でない…

『憂世の涕涙』再現実験

片塩論文で、再現実験をしている『憂世の涕涙』を、追試してみよう。こちらはオリジナルを持っていないので、いつものやつを利用する。そして、同じページをPDFダウンロードしてみる。これを100%でInDesignに配置してみると、非常に小さい。Acrobatで計測し…

『活版術』(韓国政府印刷局)

隆熙3年(1909=明治42)に出版された『活版術』については、小宮山博史「明朝体、日本への伝播と改刻」(『本と活字の歴史事典』柏書房、2000年所収)で紹介されている。 印刷図書館で、現物を見てきた。隆熙3年とは日本による韓国併合の前年であるが、この…

再び東京日日新聞の楷書活字

昨年6月に書いた記事に補足したい。 東京日日新聞の本文にサイズの異なる二つの楷書活字が用いられていることは先に書いた。 仮に一方を本文大、他方を本文小とすると、本文大は弘道軒清朝、本文小は築地活版の楷書活字である。ところが、片塩論文では104ペ…

片塩二朗氏の「弘道軒清朝活字の製造法とその盛衰」について

『タイポグラフィ学会誌04』所収 片塩二朗「弘道軒清朝活字の製造法とその盛衰」は、 弘道軒清朝に興味を持つものには必読の論文である。20日には、論文発表会も開かれるので、その前に予習をしておこう。http://www.society-typography.jp/news/10章(A4判1…

大槻文彦『日本広文典』の平仮名表

近代デジタルライブラリーhttp://kindai.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/992497/13

黄表紙の変体仮名

国立国会図書館の60周年記念特集ページ http://www.ndl.go.jp/exhibit60/copy2/3gesakusha_2.html に、山東京伝『作者胎内十月図』鶴屋喜右衛門版 享和4(1804)序刊の自筆稿本と刊本を見比べられるという素敵なページを発見。って2年も前の公開か。知らなか…